【 デ ミ ア ン 】

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『デミアン―エーミール・シンクレールの青春の物語―』

―ヘルマン・ヘッセ著

「私は、自分の中からひとりで出てこようとしたところのものを
生きてみようと欲したにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか」)


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久しぶりに読み返したら、嵌った・・・。やっぱり面白い!
以下、粗筋です。

ラテン語学校に通う主人公シンクレールは、他愛のない作り話が
原因で、近所の悪ガキフランツ・クローマーに脅され、
金をせびられる毎日。そこに都合よく現れたのが、
不思議な転校生デミアン。たまたま彼と帰り道が一緒になった
シンクレールは、驚くべき話を聞かされます。
それは聖書の「アベルとカイン」について。
デミアンによると、「カインのしるし」とは普通より余計に
才知と大胆さをもったカインを恐れた人々が、自分たちの
受けた恐怖に埋め合わせをする為に拵えた作り話だというのです。
アベルを殺したカインに、何故仕返しをしないのかと問われても
「彼は神様からしるしを受けている、だから手が出せない」
という正当な理由づけをする為だと。

初登場でこれ。いきなり驚かせてくれる(笑)

シンクレールはデミアンこそカインの一種ではないかと思います。
それから何日か後、クローマーに脅されている事を、
デミアンに勘付かれ、クローマーのような
悪者と関わっちゃいけない、と諭されます・・・が!
そこはデミアン、そこいらの中学生とは違いますね!

「あいつを打ち殺してしまえ!きみにそれがやれたら、
ぼくは感服し愉快に思うね。ぼくはきみに助力してもいいよ」

と、とんでもない事をぬかします。
不安になるシンクレール。(当然)
しまいにはしくしく泣き出してしまいます。可哀相に。
微笑してなだめるデミアン。
「この事はぼくが片付ける」と約束し、シンクレールを帰します。
約束通り次の日からクローマーは金をせびりに来なくなりました。
一体何をしたのか問うシンクレールに、

「きみの邪魔をしない方が、 彼自身のためだとわからせてやっただけさ」

と爽やかに答えるデミアン。(怖)

色々あって暫らくデミアンとは同じ学校に通いながらも、
接点のない生活を送るシンクレールですが、運命の悪戯により
堅信礼準備の為の勉強を、彼と同じ教室で受ける事になります。
席はABC順。「D」と「S」の2人は前列と後列とだいぶ離れた
位置に配置されましたが、デミアンの恐るべき意志の力により、
徐々に後退し、最終的にはなんと隣同士に!! デミアン曰く、
「きみの隣にすわることを願っていたらこうなった」・・・。

ありえない

と思いますが、この「意志の力」というのがこの作品に於いて
一つの鍵になっています。自分というものが完全にその願いに
満たされた場合、それは叶うという理論。
シンクレールは授業の間、聖書の別な解釈を聴き、徐々に
子どもの頃感じた「別な世界」を再び意識し始めました。
デミアンはエホバの神は世界の半分しか備えていないと言います。
世界は善なるもの、気高いものからのみできているのではない。
その反対には悪が存在し、二つ揃って初めて「世界」であると。
善なる神を崇めるならば、同時に悪魔も礼拝するべきだ。
さもなくば善と悪を包含する神を創造しなくてはならない、
と、新たな神の探求を示唆します。
シンクレールは、苦悩しながらも自己を見出そうとしますが・・・

という青春の物語です。(え)
この当時、ヘッセはユングにかなりの影響を受けていたようで、
執筆のきっかけは「デミアンの夢を見た事」だそうです。
ヘッセの作品を読まれるのでしたら、
新潮文庫の高橋健二氏の訳がオススメです!
同じ意味でも訳し方一つで雰囲気が全然違ってしまいますし。

×「きみだったのか。吃驚したよ」
○「きみだったの?ひどくおどろかすね!」

×「目を瞑って、シンクレール」
○「目を閉じたまえ!シンクレール」

「ねえきみ、」という呼びかけと「〜したまえ」!!
ヘッセだ(高橋健二氏)・・・と陶酔してしまいます。は〜。
このちょっと堅い文体が、作品の世界に恐ろしく合っている
と思うのです。殆どの登場人物が良家の子息だし。